mardi, novembre 18, 2008

ブエノスアイレスの夜★★★☆☆

苦みの効いた映画が観たければこの映画も良いと思う。
先日、アルゼンチンの旅人が家に泊まっていたということもあって、アルゼンチン関連の映画を探していたらたまたまこの映画にぶつかった。「ブエノスアイレスの夜」

トラウマになるような体験を持つ人もいるだろう。
この物語の主人公の名はカルメン。彼女はアルゼンチンの歴史の影に隠された被害を負う者。心と身体の傷みを封印して生きた20年とは一体どんなものだったのだろうか。セシリア・ロス演じるカルメン。彼女は私の好きな女優の一人だ。スペイン(&南米版)のジャンヌ・モロー的存在だと勝手に思っている。
歴史は大勢の人の運命を左右するだろうけれど、彼女は拷問を受けたことで女として成熟しなければならない段階でセックスと無縁な女性となってしまった。不幸なのか、幸いなのか、身ごもったまま監獄に。
性に対しての屈折した克服と処理。彼女なりの努力とアイデアで生まれたのが扉越しのセックス。
この描写は非常に面白かった。売春“夫”として登場するのは(またしても)ガエル・ガルシア・ベルナル扮するグスタボ。彼もまた中途半端な今時の青年。それがこの彼女との出会いによって、思いがけなく変わる。
二人は、急変し「扉越し」に恋をする。そこまではとても面白い。
その後、とても悲しい二人になってしまう話。

偶然にも、帰りたくない故郷に戻る姉のカルメンとその妹との関係。危篤の父との関係。母との関係。その3人の関係と姉との距離。描き方はとても納得のいくものだった。妹はカルメンの幸せな姿を最後に、(父母に拷問のことを聞かされていたかどうかはわからないが)なぜ故郷に帰らないのかを探りたかった。嫉妬するほど美しかったに違いない。いつまでも故郷から離れられない自分のことを姉のせいにしていたのだろうというところも後からわかった。
その妹と医者との関係も不思議なものだった(一番理解し難いところ)。
人物の描き方がとてもうまかった。

最後に向かうストーリーは残酷な愛の物語。真実を知った若者が、どう行動するのか、どのような心の変化があるのか。手に取るようにわかった。彼は普通の若者だったに違いない。決して特殊な人物ではなかった。

人間の影は運命を大きく左右する瞬間がある。人にその影響をもたらす発言もある。
グスタボもまた、悲しいトラウマを抱えて人生を乗り越えなければならない。彼に重くのしかかる罪。
抗争の中の暗い監獄でのリンチを受けたカルメン。その人生のそれからと、彼女を取り巻く、家族や全てが某かの影響を受けていた。結局、人が人を裁くことの、抗争の、戦争の爪あとは、深く重く、そして細く長くも残ってしまうということを感じた。

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